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ProjectID:39248
公開日時:2011-06-03 11:26
知の世界遺産
「世界遺産」、地球上の存在における「顕著な普遍的価値」を守るユネスコの活動である。選ばれる対象は、移動が不可能な不動産やそれに準ずるものとある。この条件がある限り、「書物」は世界遺産には登録されない。人類の英知が、文字により記録され伝承される書物の体表格である「本」にもユネスコで採択された国際的基準があるそうだ。

http://ja.wikipedia.org/wiki/本
「本」
現在の「本」の原型は、6世紀頃に修道院の修道士達によって作られたそうだが、修道士達が、写本を行い「本」を後生に継承してきたことは、少なからず「本」の概念に宗教的な影響があるのではないかと考える。当然ながら、伝えるべきか否かは宗教的価値観によって判断されてきたと考える。そんな本の存在を映画として楽しむと以下の作品がある。
【参照 URL(外部サイトへリンクします)】
  1. http://ja.wikipedia.org/wiki/薔薇の名前_(映画)
    薔薇の名前
  2. http://ja.wikipedia.org/wiki/ナインスゲート
    ナインスゲート
「巻物」
一方の書物の代表格に「巻物」があり、これは「本」の形態以前から存在して、紙以外の素材でも、巻くことで、携帯、保管しやすくすることで普遍的な発展を遂げた。その巻物でも突出した存在として、絵巻物、長く一遍の作品になる特徴を生かした時間を含んだ表現形式により、世界に類を見ない『源氏物語絵巻』が生まれた。物語は、時間的な流れに沿って進行し、そこにはページによって途切れる空間ではない、連続した情報の空間が続くのである。
知の世界遺産とは
さて、もし知の世界遺産があるとしたならば、石版からパピルス、巻物、本、そして活版印刷まで、人類だけが考案しその英知の歴史を記録に留める媒体はいったいどれほどの数にのぼるのだろうか?
私の両親は、古書籍業を生業として、半世紀以上にわたり「本」を商いとしてきた。専門書、希少本を主に扱い、顧客には図書館、学者、収集家が多いが、近年は需要が減少したのか供給が少なくなったのか、古書籍業という存在は減少の一途であるそうだ。
この話は、いずれまた詳しく書いていきたいのだが、ここでは、ある人物の日記というかノートを紹介しようと思う。それも500年以上も前のノートである。
全2冊、スペイン王立図書館に所蔵されるマドリッド手稿
レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿
そのノートとは、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿である。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452年~1519年)は、万能の天才と呼ばれるイタリア人であり、「モナ・リザ」を代表作とする広く画家としての知られる人物である。その彼が、美術作品以外に書物を多く書き残したことを知る人は、少なからず、知識に興味を持つ人達であろう。その中でも特に有名な書物に、マドリッド手稿と呼ばれる二冊のノート(本)があり、その近年における発見経緯はまさに劇的である。その詳しい経緯は、この二冊の手稿をファクシミリ版として復刻した岩波書店の「マドリッド手稿」の解説本に載っている。掻い摘むと、ダヴィンチの死後、彼の数々の遺産は、それぞれの顛末を経て、失われたものもあれば、マドリッド手稿のように再発見されるものもあった。マドリッド手稿はスペインのマドリッドの王立図書館の蔵書としての記録(1821年~1833年)に、存在が示されているが、記録が示す場所(本棚)には位置せず、長い間探索されてはきたものの、もはや失われたと諦められてきた。それが、ついに1965年頃に図書館内で発見されることになるわけで、約130年間にわたり、ダヴィンチの2冊のノートは図書館の中でひっそりと孤独に隠れていたのである。このこと自体が人類の歴史上、図書館の中で貴重な本が行方不明になるという前代未聞のことなのだが、もっと大事件なのは、このノートの中身であった。
岩波書店マドリッド手稿1975年発売
マドリッド手稿
マドリッド手稿に書き留められたいたダヴィンチの思考は、オリジナルの図書館のリストには以下の様に解説されている。「築城学、静力学、機械学、および幾何学に関する論述。裏返しの字で書かれた1491年~1493年までの間の著作」。この解説は、1821年~1833年まで王立図書館の司書長の職にあった、フランシスコ・アントニオ・ゴンザーレスの書いたリストにあらわれるのだが、現代科学の視点ではさらにいくつかの学問的な視点が加えられよう。それはマドリッド手稿II巻の101pに見られる鳥の飛翔に関する記述は、まさに航空力学とその考えをまとめるモデリングによる思考、建築学を数学的に解法を求める解析学(構造力学)、軍事・兵器の考案に至る。
ゼンマイの設計のページ
現存するダヴィンチのオリジナル手稿
マドリッド手稿の素晴らしさは、他の手稿とは違い、レオナルドの手を離れたときのままであろうこと、その知識の量、広さは、彼の全研究の20%にも及ぶことにある。それは、彼の生涯においてはもっとも多彩な活動を行っていた数十年間に書かれており、手稿全体から見ると中期に書かれていることからも充実度が推測できる。またマドリッド手稿は他の手稿と同様、誰かが読むことを想定して書かれていない、つまり自分自身のために書かれている。そのせいか、彼自身に関すること、家族のこと、彼の個性を推測できるような記述はほとんどない。ダヴィンチが不思議な人物であることは、そうしたパーソナリティに関する情報が僅かしか残っていないからなのである。
マドリッド手稿によって明らかになったダヴィンチ自身が記載した書物目録
知識の永続的な空間
私は、一人の科学者が数十年にわたり、記述し、それを読み返し、書かれてきたノートに対してたいへんな興味を憶えたのである。
2冊のノートは、彼自身のルールで構成されている。手稿Iは、全編にわたり緻密に描画されページ毎の美しさはまるで、ポスターのような風格さえ感じさせる。特に主題に対して、1ページ内に納めて書こうとする努力は全編において貫かれており、それでも徐々に破綻、あるいは、繰り返し登場することにもなる。一方で手稿IIは、メモ帳、あるいは他の資料からの転写もあり、まさに手帳的な書き方がされている。空白のページも多く存在する。マドリッド手稿が他の手稿と決定的に違うのは、この手稿は最初から「本」として装丁されていて、書かれていることである。他の手稿はもともと1枚の紙に書かれてたものを、後から整理し手稿として装丁されている。
こうした特徴を理解することで、一人の科学者が数十年にわたり、記述し編纂してきたノートを、デジタルで再構成、あるいは、デジタル技術で新次元の「本」として作り直してみたい衝動に駆られたのである。
インライン表示された鳥、そして文章(上部のタイトルは操縦者についてと書かれている)
現代の思考法であるモデリング考案がなされている
デジタル書物への挑戦
マドリッド手稿との出会いで、私は、生涯のライフワークになった『情報の記述伝達学』を研究している。『情報の記述伝達学』とは私が自身で命名した学問であるが、これは、コンピュータ上で書物を作るプロジェクトのことである。私がこのプロジェクトを始めたのは、1992年である。自分のUnixマシン上のWWWサーバーに、自分の論文を手書きのhtmlで構築し公開したことから始まる。そして、1995年には、1923年からの歴史を持つル・マン24時間レースの1995年の記録を現地ル・マンのサルテサーキット場で、リアルタイムに記述してその年のレース結果を電子書物化したのが最初の作品である。

このサイトは現存し、当時の表現のまま閲覧することができる。htmlのソースコードには、Copyright: Thinks Projectと記載されているが、Thinksとは、The Hypertext Intelligence and Knowledge Systemの略称であり、この研究プロジェクト名は現在も継承されている。当時の私の考えは、テキスト、写真、図、動画、音声などをコンピュータが扱えるようになると、最初に考案されるのが電子的な「本」であり、知識継承のための新しい記述様式や伝達様式、そして、知の表現方法そのものが変化を遂げると仮定し、最初の電子的な書物のコンセプトをWebで実現しようとしたのである。このプロジェクトの話は、今後は私のブログのテーマ「考えるヒント」としてシリーズ化してみようと考えている。実は研究当初は源氏物語絵巻を元に時間を含んだ連続性の記述ノートの研究からスタートしたのである。
【参照 URL(外部サイトへリンクします)】
  1. http://www.nissan.co.jp/Lemans/
    ル・マン24時間レース、1995年の全記録Web
  2. http://www.vividcar.com/cgi-bin/WebObjects/f1b8d82887.woa/wa/read/10bf6bfd0a1/
    カメラ毎日読本、毎日ムックに掲載されたルマンプロジェクトの紹介記事
希少本の取引
さて、私はこの岩波書店復刻版「マドリッド手稿」を父からプレゼントされたのは、確か16歳の頃だったか。この書物を手にし開くまでは、普通にモナリザの作者としてのダヴィンチだったのだが、天才がいかなる存在であるかを知り、その後の科学技術の勉学に対して自身にしてたいへんな影響を与えてもらったのである。当時は、毎日毎晩、この書物を眺めては解説文を読み、きょう今日現在に至るまで、愛用し続けた結果、ぼろぼろに痛んでしまった。何度か本の修理人に依頼して修繕しようとも考えたのだが、父の仕事仲間を通じて、最近当時発売された限定の革装丁版を手に入れることができ、これまで愛用した方はさらに気兼ねなく使いよりぼろぼろになってしまった。

すると不思議なことに、愛用した装丁と同じもの、しかも手つかずの新品が見つかったと言うことでそれも購入してしまった。これはたぶん購入後、まったく開けることなくそのまま所蔵品となっていたか、あるいは業者間を転々とした新古品かもしれないが、この本の履歴は先のマドリッド図書館とは違い、全く不明である。古本の辿るまか不思議な運命も、その「本」人しか解らない事であるが。

さて、知の世界遺産があれば、間違いなく登録される、万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチのマドリッド手稿2冊、完全な対訳本2冊、解説書1冊の全5冊からなる1975年ファクシミリ版(原本複製)として復刻されたマドリッド手稿の新古品をお譲りします。当時の定価は98,000円。グッチーポストが新たに始める希少本販売コーナーの第一弾として、送料込みで、100,000円でお譲りします。
【参照 URL(外部サイトへリンクします)】
  1. http://gallery.me.com/tatsumi.nagayama#100417
    マドリッド手稿全5冊(1975年岩波書店発行、未使用品)
参考書
天才としてのレオナルドを知るには、もっとも優れた編集と素材にあふれた秀逸な解説書。アメリカ、イギリス、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス、オランダ、日本の世界8カ国の共同出版。
参加出版社は、マグローヒル、ハッチンソン、タウルス、モンダドーリ、フィッシャー、ラフォン、スペクトルム、岩波書店。
古本として、比較的安価に手に入りますので、同時にこちらも購入されると、あなたもダヴィンチ世界に没入できます。

『知られざるレオナルド』

1975年 第1刷発行
編集:ラディスラオ・レティ
発行所:岩波書店

【参照 URL(外部サイトへリンクします)】
  1. http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/4/0081000.html
    岩波書店Webサイト